ミロク製作所

TAKUMI INTERVIEW

匠インタビュー

力強く繊細な彫刻を施すことで、
「銃」が「芸術品」に変わる

依岡文恵

よりおかふみえ

株式会社ミロク工芸 第一加工課

「職人タイプ」にはうってつけの仕事だった

「銃」というと、無骨なイメージを思い浮かべる人も少なくないだろう。しかし、レシーバーに彫刻と金細工が施された高級銃は見目麗しく、その力強さと繊細さを併せ持つ意匠はさながら純粋美術の佇まいだ。ミロクには、そんな美しい銃を作り上げる彫刻専門の技術者がいる。その職人たちはまさに芸術家のように、何年もかけて己の作品を新たな高みへと誘っている。

彫刻を担当している依岡は「もともと手芸など手を動かすことが好きで、人と話すのが少し苦手だったので『職人タイプ』と言われていました」と語る。ミロクに勤務していた母親から「コツコツと細かい仕事だから、きっとあなたに向いている」と勧められて応募した。入社後すぐに「なるほど、これは確かに向いている」と感じるほど、性に合った仕事だったという。

基本的な業務は、図案を元に手で線を彫り込んでいく作業。主に唐草などの伝統文様を細かいタッチで彫り、金属部分に彫刻を施す。さらに、ものによってはそこに金を埋め込む金象嵌などの技術も凝らす。入社当時はもちろん彫刻の経験などなかった。最初はひたすら直線を彫った。1ヶ月ほどの練習期間を経て、波、丸、と少しずつ模様を変化させて彫っていく。基礎練習を無我夢中で続け、製品に触れるようになるのには半年かかった。

「鉄の塊」をその手で「高級銃」に変える

「私は時間がかかったほうだと思います。実際、練習したその日には打てるようになった人もいました。製品を彫れるようになるまで練習させていただき、部署の皆さんには感謝の言葉もないです」

しかし、じっくりと確実に歩みを進める依岡の仕事は繊細ながら静かな迫力に満ち、一本一本が逞しい魅力を放つ線にはコアなファンも多い。とはいえ、製品は「アート作品」ではない。いくらでも時間をかけられるというわけでもなく、個性的であればいいというわけでもない。納期もコストも決まっている。「アーティスト」ではなく「職人」として信頼されている依岡は、与えられた条件の中で「鉄の塊」をみるみるうちに「高級銃」に変えていく。

「私はデザインをしているわけではなく、決まった仕事をこなしているだけ。ですが、常に『品質の高いものをお客様に届ける』ことを意識して、条件の範囲内で最高のものを作ることにこだわっています。どんな銃でも一丁一丁と向き合い、丁寧に仕上げること。当たり前ですが、それに尽きると思います」

他にはない技術を学べる仕事

部署の中で「匠」と呼ばれるベテラン職人は高齢が多くなった。依岡は中堅社員として諸先輩たちの技術を受けつぎ、次世代に残していく役割も担っている。

「金象嵌を使う銃の種類は多くはないので、携わる機会は多いわけではありません。私も初めは先輩に助けられながらようやく技術を掴み取りましたが、その達成感は忘れることができません。こうした技術を学べるのは他の会社にはない魅力だと思いますので、しっかりと身につけて後輩たちに受け継いでいきたいと思っています」

「これが最高」と満足することなく、技術の向上を目指す

彫刻は、言ってみれば実用品の装飾に過ぎないもの。だが、ミロクの銃を見れば「たかが装飾」とはとても呼べなくなるだろう。ブローニング社から「手作業で彫刻できる人を増やして欲しい」と要請が来ているのがその証拠。現在、この部署では絵画の経験者などを積極的に採用し、早い段階で実戦的な作業に入るようにしている。それでも、職人の道は果てしない。

「一つの製品には何千本という線があり、私はまだその全てを100%の出来だと言い切ることができません。ただ、現状に満足して『これが最高だ』と思ってしまうとそこで終わってしまう気がするので、いつも足りないくらいがいいのかもしれません。仕事に関しては貪欲なのかもしれないですね(笑)。新しい製品もどんどん出てきますので、それに対応する技術も身につけなくてはいけませんし、勉強と練習に終わりはないと思っています。だからこそ楽しいし、この仕事に就けたことを誇りに思っています」

と語る依岡の言葉には、ものづくりを仕事にする者の矜持が感じられた。

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