お客様に120%の満足を届けなければいけない
機械では加工のできない細部に細工を施し、削り出された部品一つひとつの図面を見ながら、やすりで細かく成形し組み上げていく。高級銃の中でも規格が厳しく難しいブロー二ング社の「B15」という製品を任せられている河添は、子どもの頃に憧れた「銃」を作る業務に携われたことを誇りに感じながら、妥協しない製品を作り上げている。
ミロクの高級銃は、一丁作るのに2〜3ヶ月かかる。普通の銃の5〜6倍もの手間をかけて製造される特別な銃だ。公差で認められている範囲の最小値の隙間で合わせる。仕上がった製品からは見えない機関部も一つひとつ鏡面に仕上げ、さらにクロムメッキを施し堅牢性を持たせる、など高級銃として恥じないこだわりの仕上げに定評がある。そのこだわりは、彼ら職人一人ひとりが誇りを持って業務に向かっているからこそできる逸品なのだ。
河添は、「製品は皆そうですが、特に高級銃はお客様に120%の満足を届けなければいけません」と思いを口にする。
仕上げ、磨き、組み立て、着色、全ての行程を学ぶ
河添が初めてミロクを知ったのは、高校の社会科見学でミロクの工場に来た時のこと。実銃と、それを作る職人たちを生まれて初めて目の当たりにし、「こんな仕事があるのか!」と感銘を受けた。そこからミロクに入社することが将来の夢となった。
入社してから勤続25年。当初はライフルの磨き班に配属。銃身や機関部の機械加工オペレーターとなった。それから3年半後、仕上げ、磨き、着色、組み立ての各行程を、それぞれの部署の職人たちから学びながら異動していった。
「理屈を覚え、同時に体が覚えるまで一つひとつ実践し、技術を学んでいきました。今振り返ると、いつかはひとつの業務に集中するにしろ全行程を意識しているとしていないとでは作業に齟齬が出てきますから、全行程を回って経験を積めたのはとてもありがたいことでした。上司が次のキャリアまで考えて勉強させてくれたのだと感謝していますし、その期待には応えたいと思います」
初めて1人で銃を作った時の感動を胸に
今、後輩や同僚から尊敬を込めて「仕上げの匠」と呼ばれる河添だが、初めて銃を作り上げたことは忘れられないと言う。
「忘れもしない『SP109』というカスタム銃です。1丁目は先輩に教えてもらいながら作りましたが、2丁目からは自分1人でやることに。高級銃を1人で作るという初めての経験に心が折れそうになりましたが、時間はかかりながらもなんとか作り上げることができました。その時の達成感と誇らしさは、それまでの業務では感じたことのないものでした。あの時の充実感があるからこそ、この仕事から離れられないのかもしれません」
もとは単なる金属が、部品が、組み立てられて「銃」という名の命が灯るその瞬間の喜びは、ものづくりを仕事にした者が受ける恵みだ。その充実感を味わうためには、今日よりも明日、明日よりも明後日と、絶え間なく技術と知識を積み上げていく覚悟を必要とする。「匠」とは、技術を極めたから呼ばれるのではなく、その生き様全てを持って呼ばれる称号なのだろう。
先人たちにいつか追いつき、追い超せるように
河添には、目標とする先輩がいる。入社前に班長だったその人は、一旦退職した後に嘱託として現場に復帰し、今は後進を育てている。
「今でも、技術も知識も全く叶わないほど物凄いスキルを持った職人です。この先人にどこまで追いつき、追い超せるか。今はそれを目標としています」
「職人」とは、自分の知識と技を手の動きに昇華できる人のこと。さらに「匠」とは、それだけではなく人間性も問われるもの。「人を育てる」ということを考えればそれも道理。後進たちが思わずついていきたくなる、手本としたくなる「真の匠」がすぐそばにいること。それこそが、ミロクの伝統が途切れない秘訣と言えるだろう。